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対談:ヨーロッパ企画 上田誠 × Rhizomatiks 真鍋大度
「Syn : 身体感覚の新たな地平」のつくり方

2023.12.28 (Thu)

2023年11月12日(日)まで開催されたTOKYO NODE 開館記念企画 第一弾のRhizomatiks×ELEVENPLAY「Syn : 身体感覚の新たな地平(以下、Syn)」。本作では、さまざまな舞台やドラマの脚本・演出を手掛けてきたヨーロッパ企画の上田誠がストーリーを手掛けてもいる。上田とRhizomatiksとELEVENPLAY、異なるフィールドで活躍する三者からはどんな化学反応が生まれたのか
――Rhizomatiksを率いる真鍋大度と上田が、異色のコラボレーションを振り返る。

TEXT BY SHUNTA ISHIGAMI

思考に物語を与え、言葉に変えていく役割

上田誠(以下、上田):真鍋さんの活動は以前から知っていたので、今回お声がけいただけてうれしかったです。最初にお声がけいただいたときは作品の舵となる物語を書くのかなと思っていたのですが、むしろ作品をつくるプロセスや思考に物語を添え、解釈を加えて言葉にしていくような役割を担うことになりましたよね。RhizomatiksとELEVENPLAYのコラボレーションの関係性を読み解きながら、コミュニケーションを進めていったように思います。

 

真鍋大度(以下、真鍋):「非同期テック部」[編注:2020年4月に結成された、上田誠・真鍋大度・ムロツヨシによるユニット]でご一緒したことがきっかけとなって、今回上田さんに相談したんです。上田さんはテクノロジーの魅力を使いながら作品としても面白いものをつくるのが得意だと知っていたので、今回のようなノンバーバルなパフォーマンスにストーリーを加えるならば、上田さんに声をかけるしかないと思っていました。

AIが不気味な進化を遂げた未来を予感させるシーンをはじめ、「Syn」においてAIは重要な要素のひとつだ。

上田:ぼくにとっても非同期テック部はテクノロジーの可能性を感じられるような試みでとても面白かったので、真鍋さんにも楽しんでいただけていたならよかったです。最初にお話を伺った時点でAIがテーマにあることや3つの空間に分かれていることは決まっていましたが、ほかはさまざまなアイデアについて議論していましたね。

真鍋:上田さんが参加する前は、私がLlamaやChatGPTを使いながらストーリーを生成したり、アイデアを整理していました。これまでとは異なり、テキストを多様な方法で扱えたことが興味深かったです。最初の部屋で流れるポエムや、画面に表示される英語のテキストやソースコードは、すべてLlamaとChatGPTで生成したものです。ただ、AIだけで生成したものには不足があり、上田さんのような第三者の視点が必要でした。上田さんが加わることで、プロジェクトはうまくまとまったと思います。パフォーマンスをつくる上で、ハードウェアの決定は早期に必要ですが、ソフトウェアやコンテンツは最後の瞬間まで考えることができます。上田さんとの議論を通じて、大量の資料が生まれました。

上田:最初に見せていただいたあらすじは誰が書いたものなのか尋ねたら、大度さんがAIに書かせたものだ、と。今回はAIがライバルなのかと思いましたね(笑)。「Syn」のテーマとも関わることですが、人間の自分だからこそできることは何なのか考えながら参加することになりました。

最初の部屋では、LlamaとChatGPTで生成されたソースコードが画面に表示されていた。

合わせて表示された「ポエム」もAIによって生成されたもの。

AIの生成テキストを踏まえ、上田による「ポエム」も表示された。

「頭」と「手」を往復しながら進んだ制作

上田:改めて「Syn」を観てみると、どうやってこんな異形のインスタレーションができあがったのか非常に不思議なんです。先行してつくられていた「音楽」を共有しながらRhizomatiksとELEVENPLAYがコラボレーションを進めていったように思えるんですが、いつもこうやってつくられているんですか?

真鍋:ELEVENPLAYとのコラボレーションでは、やはり音楽とダンスが基盤になります。特にELEVENPLAYとつくる際は、最初に音楽を用意します。今回も6月には音楽のスケッチが一通り完成していました。今回の目標は時間の構造にアプローチするような体験をつくることだったので、音楽をつくりながら全体の構造について考えていました。ほかの作曲家に依頼する場合、細かな修正や仕掛けとの連動が難しいことがありますが、自分でゼロからつくることによって、このような作品がつくれたと思います。

RhizomatiksとELEVENPLAYに伴走するようにして、上田は真鍋やMIKIKOとコミュニケーションを重ねていったという。

上田:たしかに、RhizomatiksとELEVENPLAYの作品だと細かな連動も多そうですし、常に現場で議論しているから随時アップデートできないといけませんよね。ぼくも単にこの演目のあらすじを書いたわけではなく、さまざまな点から制作に関わっていたなと思います。

大度さんやMIKIKOさんとどうコミュニケーションをとれば作品が先に進むのか、どんな解説があればお客さんを誘えるのか、どう作品の筋道を照らしていけばいいのか──特設ウェブサイト上でストーリーとして公開されているテキストも、私自身が完成形を見たときの様子をレポートにするものですし、MIKIKOさんとも話しながらやりたいことを考えていき、それに対してストーリーのアイデアを出して取捨選択し……と、ぼくは目の前で起こっているクリエイションに対してその都度物語をつけていました。

真鍋:現場にいると、どうしても手を動かす時間が長くなってしまいますが、そんな時に上田さんが稽古場に来てくれると本当に嬉しいんです。上田さんにその場で起こっていることを説明しながら、私の頭の中も整理されるんです。そして、上田さんは私よりもさらに伝わりやすい表現を考えてくれます。特にMIKIKOさんは、上田さんが参加してくれたおかげで、よりスムーズに作業が進んだと思います。上田さんがいなかったらどうなっていたか……考えるだけでも怖いですね(笑)。

稽古期間中は都内某所の巨大な倉庫の中でダンスや舞台美術の検証が繰り返された。

制作現場ではダンスや舞台美術の演出に合わせて真鍋が随時音楽を編集し、表現がアップデートされていった。

日々試行錯誤を繰り返していくことから、「Syn」の体験は形づくられていった。

自走する「壁」をはじめとするハードウェアの演出が「Syn」を唯一無二の作品にしてもいる。

ライゾマ式「マトリクス」のつくり方

上田:本番が近づいていくなかで、指数関数的に完成度が高まっていったのが印象的でした。自分も構想期間が長いタイプなんですが(笑)、話し合いが長い間続いていたと思ったら、一度進みはじめると3日行ってないだけで作品がガラリと変わっていることもあるし、どんどん完成に向けて進んでいく。長く続いているチームだからこそできることですよね。とくに終盤はリハーサルが終わってからまた作品が進化していて、カンブリア爆発のような変化が起きていました。なにか決まったスタイルがあるんでしょうか?

真鍋:ハードウェアの設計と開発は石橋(素)さんがディレクションしていますので、私自身、「これ本当にできたのか」と現場で驚かされることもあります(笑)。制作に関しては、今回も照明を担当していただいたダムタイプの藤本(隆行)さんから学んだ方法を、ライゾマ式にカスタマイズしています。構成については、個人用にはAbletonという音楽ソフトで管理し、チーム全体用にはスプレッドシートを使用しています。スプレッドシートでは、音楽を2小節ごとに分けてマトリクスを組んでいます。

2小節ごとに、照明、映像、舞台装置、ダンサーの動きが割り振られます。これが完成すると、それぞれが担当する部分の制作に取り掛かることができます。これをつくっておけば、チーム全員がその指示書をもとに作業を進めることができるんです。

真鍋の音楽制作ファイル。音楽制作のためだけではなく、構成を考えるためにも使用されている。

真鍋が作成したマトリクス。照明や人、舞台美術の動きが細かく管理されている。

制作チームと共有するために、真鍋はビデオコンテも制作している。

真鍋が動く壁の仕組みを制作メンバーにプレゼンする際に使用した動画の様子。

さらにMIKIKOも動画を使いながらダンサーへ動きの指示を行っていく。

上田:面白いですね。“台本”のようなものをつくるんだ。

真鍋:作品の大黒柱となるコンセプトテキストもつくりますが、おっしゃる通りELEVENPLAYとの制作ではこのマトリクスが台本となります。ただこれだけだと細かい指示が出せないのと直感的ではないため、ビデオコンテをつくって制作チームと共有します。

上田:Rhizomatiksさんの作品だと変動する要素が多くて大変そうですよね。

真鍋:今回は大きな壁を動かしているので壁の位置によってプロジェクターや照明の使い方を変えなければいけないのが大変でしたね。普段より要素が多いわけではないのですが、色々と制約は多かったです。その制約のパズルを解いていきながらマトリクスを完成させるんです。

「Syn」は自走する大きな“壁”によって空間をさまざまなかたちにつくり変えてみせた。

常に制約からアイデアを生み出しつづける

上田:一発限りのライブとは異なり、舞台や「Syn」のようなパフォーマンスはトラブルを起こさず千秋楽まで公演を続けなければいけないのが大変ですよね。他方で、公演を続けるなかで変わっていくものもある。ぼくの場合は役者によって作品が変わっていく部分が大きいですが、特にコメディだとお客さんとのコミュニケーションが必ず発生します。

真鍋:特にダンサーさんは、最初と最後で振り付けに対する解釈も変わってるでしょうね。こうしたパフォーマンスはお客さんが入って初めて完成するものでもあるので、常にパフォーマンスも変化しつづけていると思います。

38日間、1日17公演のパフォーマンスが続いていくなかで、ダンサーたちの表現もアップデートされていったという。

上田:改めて完成した「Syn」を鑑賞してみて、演劇ではできないことばかりが目の前で繰り広げられていることに悔しさとうらやましさを感じました。ELEVENPLAYのダンスは統御されていてすみずみまで神経が通っているし、Rhizomatiksのテクノロジーは一つひとつのクオリティも高いし面白みもすごい。どういうチームを組めばこんなものがつくれるんだろうとドキドキしてしまいます。

同時に、お客さんから見るとすごいことが起きすぎていて何が起きているのかわからなくなってしまうこともあるのかもと思いました。観客のリテラシーが求められるというか。とくにギャラリーBで壁が逆再生のように逆行しながら過去の自分達の映像が投影されているシーンでは、自分が3Dグラスをつけていることも相まってさまざまなレイヤーの重なりが感じられて鳥肌が立ちましたから。一番最初からこんな体験をつくろうと思っていたんですか?

真鍋:何もないところからアイデアが出てくるわけではなく、あえて制約を設けて実験を繰り返すことで、今回はさまざまなアイデアが生まれたと感じます。大量のリサーチとプロトタイピング、そしてリハーサルで偶然に発生したさまざまな出来事が、アイデアの入力となっていきます。動く壁というアイデアも途中で生まれました。私がゼロからすべてのアイデアを出しているわけではなく、お題や制約を設定し、そのなかでメンバーがさまざまなアイデアを出し合う、そんな感覚に近いですね。

お題を出すと、ハードウェアや映像のチームからそれぞれアイデアが出てきます。それに応じてまた別のアイデアを生み出すことができます。例えば3Dメガネは、ハードウェア制御と組み合わせると面白くなることがわかっていたので、制作の初期段階で使用することを決めていました。ただ、メガネのシャッターと同期する特殊なライトデバイスの開発はエンジニアチームが行い、それをダンスと組み合わせたのはMIKIKOさんでした。

上田:振り返ってみると、ここまで関わらせてもらったことでようやくRhizomatiksとELEVENPLAYのつくり方の感覚が掴めた気がします(笑)。また声をかけてもらえたらもう少し作戦を立てられる気がするので、ぜひなにかご一緒したいですね。

上田誠
ヨーロッパ企画代表

1979年生まれ、京都府出身。ヨーロッパ企画代表で、全ての本公演の脚本・演出を担当。2017年に舞台『来てけつかるべき新世界』で第61回岸田國士戯曲賞受賞。近年の主な作品に【映画】『ドロステのはてで僕ら』(原案・脚本)『前田建設ファンタジー営業部』(脚本)【アニメ映画】『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(日本語吹き替え版脚本)『四畳半タイムマシンブルース』(原案・脚本)【ドラマ】『時をかけるな、恋人たち』(脚本/KTV)『魔法のリノベ』(脚本/KTV)【舞台】『たぶんこれ銀河鉄道の夜』(脚本・演出・作曲)などがある。

真鍋大度
アーティスト、プログラマ、DJ

2006年Rhizomatiks 設立。身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。高解像度、高臨場感といったリッチな表現を目指すのでなく、注意深く観察することにより発見できる現象、身体、プログラミング、コンピュータそのものが持つ本質的な面白さや、アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、様々な領域で活動している。

2023.12.12 緊急時のお知らせ

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